迅速に対応してもらったツールの新機能は、応用範囲が広くていろんなことを試したくなる。そのため書体の制作をたびたび中断して妄想にふけってしまうが、新たな気づきもいくつかあった。生産性と創造性のバランスは、つねに重要かつ困難な課題である。

きのうお昼に鳥よしに入ったら、あちこちから射すような視線が飛んできた。どうやらママさん送別会で貸し切りだったようだ。そんな獣を見るような目つきをしてはいけません。同日、駅前のせんべい屋さんで試食させてもらっていたら、「お客さん、以前ミスタードーナツによく来られてましたよね。実はわたし、あそこでバイトしてたんですよ」と店員さんから声をかけられた。ひえ〜〜。女性の眼に二度たじろいだ桃の節句であった。

午後からグラフィックデザイナーの仕事場訪問で代官山へ。たっぷり二時間、書体とデザインの話をする。すぐれたデザイナーはたいていことばの良き使い手だが、まさしくきょうもそのことを実感した。明晰な思考なくして効果的なデザインは生まれない。

まとまったかたちで個人の仕事を見ることで得られる気づきは、デザイン年鑑で大量の作品を見るよりはるかに多い。偉大な仕事を残した人の作品集は、ちょっと高価でも若いうちに手に入れて、ときおり眺めては思いを新たにすることをお勧めする。敬して遠ざけるのではなく、どこまでも近づくために。

用あって柳宗悦の本を読み返す。『工藝文化』や『民藝四十年』などの著作のうち、付箋の数がいちばん多かったのは、熊倉功夫編『柳宗悦 茶道論集』だった。目立つように付箋してあったのは次のような箇所。「茶は古を稽(かんが)うことではあるが、稽うのは、「今」を生むためともいえる。つまり動かぬ淀みではなく、いつも活々した流れとならなければならぬ」

名古屋栄で大学時代の友人夫妻と昼食をとり、午後2時から3時間ぶっ通しで愛知芸大デザイン科の講評会。今年はとんがった作品が少なかった。打ち上げを早めに退席して帰京し、レタースペースでそばを食べて軽く仕事。

こもって漢字制作。仕事場でうどんを食べる。武蔵美の先生たちの集まりで夕方から六本木に行き、最終の新幹線で名古屋へ向かう予定。

一応テーマを設定した上で、あとは好奇心の趣くままに、異分野で活躍している人のリサーチを行なう。すごい仕事を手がけている会社にはすごい人がいるなあという当たり前の感想と、もっとがんばらねばというありがちなモチベーションがアップした。

新人デザイナー二人が作った文字に細かな修正指示を出す。完成度を上げる余地はまだある。書体開発の技能と頭脳を磨くこと、すなわち彼らの成長こそが会社の伸びしろであり、彼らが手がけた書体が世の中に出て行き、時間をかけて未来の風景になっていくという思いを抱きつつ、繰り返し改善を要求する。「刻む」と「磨く」が活字書体の存在を際立たせる。

「私は長距離ランナーを選ぼうって思ったのね」。石岡瑛子さんのインタビュー記事は、Web連載とは思えない上質なテキストだった。なにより生きている石岡さんがそこにいるような臨場感がある。たびたび背筋がしゃんとする。

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